鈴木誠也(32)がアリゾナ州のスローン・パークで初めて打撃練習に臨んだ日、多くの視線が集まっていた。カブスが日本から獲得した長距離打者への関心は高く、その実力を目の前で確かめる最初の機会だった。
まず目を引いたシーンは、鈴木のスイングは始動が静かだった。左足をゆっくり上げて、軸足に体重を乗せながら、弓を引くようにバットのグリップを後方へ。一気に鋭く振り抜くと、打球は次々と外野後方の芝生席で飛ん。5年前の春だった。
「本当に美しいスイングをしています。それに、とても力強い選手です」
カブスのクレイグ・カウンセル監督(56)は以前、そう評した。
鈴木は5シーズンにわたり、カブス打線の中軸で長打力を発揮した。メジャーの投手への理解を深め、生活面での負担を減らす方法も身につけるまでには時間を要した。それでも次第に安定した打撃を続けるようになり、ファンからも支持を集めた。
そして今、2022年3月に広島カープからカブスへ移籍した際に結んだ5年8500万ドル(約135億円)の契約が最終年を迎え、鈴木は今オフにフリーエージェント(FA)となる見通しだ。
さらに鈴木は、イアン・ハップ(32)とともに、今オフのFA市場で上位に位置する打者の一人となる。
カブスがポストシーズンで敗退した後、鈴木はカブスで最後の試合を終えた可能性について、どう受け止めているかを尋ねられた。
「いやもう思い出を語り出したら3時間ぐらい話さないといけないですけど、いいですか?(笑)」
鈴木はペトコパークのクラブハウスで囲んだメディアに対してそう言って笑い、以下のように続けた。
「初めてアメリカに来たのもカブスがあって、ここに来られて、素晴らしいチームメートだったりスタッフ、いろんな人がサポートしてくれたから今ここでこうやってしっかり戦えている。すごく思い出もたくさんありますし、もちろんファンのみなさんの声援だったりリグレーフィールドで野球をやる、この素晴らしさを、改めてもう1回(地区シリーズまで進んで試合を)やりたかったですけど、すごくいい思い出にはなってますね。家族もすごくシカゴが大好きですし、FAのことっていうのは今年僕が初めてになるんで、どういう動きでどう話が進んでいくのかっていうのが全く想像できないんで分からないですけど」
カブス側がまず取るべき手段として、少なくとも1年のクオリファイング・オファーを提示することが考えられる。鈴木が他球団と契約した場合、カブスはドラフト指名権の補償を得られる。
今オフの野手のフリーエージェント(FA)市場を考えれば、鈴木はクオリファイング・オファーを断り、より長期の契約を求める可能性が高い。
※クオリファイング・オファー(QO)は、FAとなる選手に旧所属球団が提示できる1年契約。金額はMLBの年俸上位125選手の平均額を基準に毎年決まり、2026年シーズン向けは2202万5000ドル(約34億9000万円)だった。選手がQOを拒否して他球団と契約した場合、旧所属球団は条件に応じてドラフト指名権の補償を受けられる。
カブスのジェド・ホイヤー編成本部長(52)はシーズン終了会見で、鈴木の去就について詳しく語らなかった。投手、野手ともに多くの選手がFAを迎えるため、2027年は選手が大きく入れ替わる変わる可能性があると認めた。
「全員を残すことはできません。来年はチームの顔ぶれも雰囲気も変わるでしょう。多くの意味で、それは良いことです。ただ、FAになる優れた選手がたくさんいる点は強調しておきたい。彼らとは今後も連絡を取り合います」
鈴木はカブスで過ごした5シーズンで675試合に出場し、打率.269、出塁率.351、長打率.472、113本塁打、142二塁打、316四球、374得点、382打点の成績を残した。この5年間で110本塁打、140二塁打、300四球、380打点をすべてクリアしたMLBの右打者は、鈴木を含めてわずか7人だった。
シーズン後半に調子を上げていく印象を持ったカブスファンも多かったかもしれない。実際、月別の通算成績にもその傾向が表れている。
6月: 打率.245/出塁率.313/長打率.450(OPS.763)
7月: 打率.263/出塁率.342/長打率.464(OPS.806)
8月: 打率.279/出塁率.364/長打率.473(OPS.837)
9~10月: 打率.295/出塁率.393/長打率.508(OPS.901)
今季の鈴木は打率.270、26本塁打、31二塁打、86打点、OPS.841を記録し、四球は自己最多の81個だった。守備でもスタットキャストによるFRV(フィールディング・ラン・バリュー=守備による得点価値)で+8、OAA(平均より多く奪ったアウト数)で+5をマーク。2026年開幕前まで通算で両指標ともマイナスだったが、大きく改善した。
自己評価の厳しい鈴木は、カブスで過ごした5年間を振り返り、もっとできたという思いも口にした。
「正直、あんまり期待に応えられたのかって言われると、もっともっとできたんじゃないかなっていうか、もっと自分に期待してた部分もあった。悔しさが残るシーズンが、ほとんどだったのかなと思います。いい時も悪い時も、応援してくれたみなさんもいるんで、常に頑張ろうと思っていましたけど、自分では、あまり満足できる5年間という感じではなかったです。最後こうやって守備がしっかり向上して、周りのみんなに信頼してもらえたのはすごくうれしかったですね」
